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あなたの色

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 あなたを大事な人と思った時に、世界はひと色色を増やした。私の世界は、そうやって味気なさから抜け出してゆく。

 色を増やした私の世界は、永遠にそうやってあるのだと、私は信じていた。


 世界がまた色を失う。あなたを失って、世界が色を失くしてしまう。私の味気ない世界が戻って来る。そして私は、失った色を取り戻す術を知らず、あなたが私に与えてくれたあの色が、あなたなしで取り戻せるのかどうかを知らない。

 あなたが染めた私の世界が、色を失って、今は灰色ですらない、ただのもやもやとした影のように見える。奥行きのない、平たいぺらぺらとしたものらしきものがふらふらと動いて、眺めていると息苦しくて、私は辛うじてまだ残る他の色へ目を移し、やっとひと息つく。

 けれどどこを見たところで、あなたの色はない。


 あなたが不意に消えた。何の前触れもなく、さようならと言う間もなく、私が知ったのは、あなたがもうどこにもいないのだと言う事実だけで、そう知った瞬間に私の視界から失われた色を、私は頭の中で思い浮かべて、その色を鮮明に覚えていられるのは、一体いつまでだろうかと、今もまだあなたがもうどこにもいないと言うことが信じられずに、世界にあなたの色を探している。


 世界はたやすく色を変える。様々な理由で、世界の色は変わり続けている。空に掛かる虹は永遠にそこにあるわけではなく、雨の後に澄んだ空気が、いつまでも澄んままであるわけでもない。

 私の目に映る世界の色は、私の気分でも色を変えるのだし、疲れている日には、何もかもが薄ぼんやりと灰色がかっていても仕方がない。

 あなたの色を欠いた世界に、私は否応なしに慣れては行くだろう。生きるとはそういうことだ。私たちは失い続け、喪うために生きている。失くしたものを恋い、懐かしがり、改めて得たものを、また失うことに恐怖しながら生きている。

 そうして私は、あなたの色を喪った。


 あなたはまたいつか、ここへ戻って来るだろうか。別の色を携えて、その時はもう、あなたはあなたと言う存在ではなく、それでもあなたは、いつかここへ戻って来るだろうか。

 色を持たない私の、濃淡の際さえ曖昧な私の世界に、あなたが与えてくれた色はまた失われて、私は再び自分の世界の味気なさを思い知っている。

 あなたの持つあなたの色を、私はまたいつか取り戻す時があるだろうか。あなた以外の別の誰かが、あの色をまた、私の世界に与えてくれるだろうか。


 あなたの色を恋いながら、私はそれはあなたの色だから恋しいのだと言うことを知っている。

 他の誰かが、私に与えてくれるかもしれないあなたのそれと同じ色が、私の世界を同じように染めてくれるのかどうか、私には分からない。

 あれはあなたの色だった。あなただけの色だった。そのあなたの色が、私はとても好きだった。


 あなたは、私の世界を春にし、夏にし、秋にし、そして今、私の世界は冬になった。この冬は、しばらく終わらないだろう。あなたの色なしに、春はひどく遠い。

 夜が恐ろしいのは、多分色が見えないからだ。動く影すら見分けもつかない、まったくの闇色が、私はきっと恐ろしいのだ。

 冬の夜に、私はあなたのことを考える。あなたの色のことを思い出す。朝までの長い時間、春までの気の遠くなるような間、私は、必死であなたの色のことを考えて、空っぽの自分の胸を満たそうとする。

 色のない、あなたの気配のない世界は、ひどく虚ろだ。


 春はいつ来るだろう。あなたの色を欠いて、私の世界に、再び春はやって来るだろうか。

 冬の白さが、じきすべてを埋め尽くす。私はその冷たさに怯えて、闇の隅っこにうずくまる。

 あなたがどこにもいないことに、馴れるのはいつだろう。うぞうぞうごめく灰色に満ちた視界に、馴れるのは一体いつだろう。

投稿者 43ntw2 | 返信 (0) | トラックバック (0)

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