抹茶フラペチーノ | 43ntw2 | sa.yona.la ヘルプ | タグ一覧 | アカウント登録 | ログイン

抹茶フラペチーノ

返信

 外へ出たら思ったよりも寒かった。風が冷たい。シャツ1枚にするか上着を着るか、出る前に迷って結局上着は着て出て正解だった。

 室温と天気の良さにだまされ掛けた土曜の午後、思ったよりも早く切り上がった用のせいでぽっかりと時間が空き、今日は家を出ないつもりだったのに、ふと思いついてばたばたと家を出てしまった。

 財布と本、それだけはきちんと持って、私はバス停に向かって歩く。風の冷たさにちょっと肩を縮め、続いていた春の陽気がまた突然どこかへ去ったことを、道路を走り回る小さな生き物たちも恨めしく思っていることだろう。

 それでもすでに溢れている緑はそのまま、今はたんぽぽが満開だ。混じって咲く、白や紫や青やピンクの小さな花たち。たんぽぽの黄色には圧倒されていても、私の目には充分に鮮やかだ。


 バス停を降りると、目の前はスターバックスだ。車を持たない私には関係ないが、24時間営業と、誇らしく外に書いてある。歩ける距離なら、深夜早朝関わらず顔を出しているかもしれない。

 もう家を出た時から、今日はフラペチーノを頼むのだと決めていた。そして風の冷たさに、ちょっと早まった決断だったかと思ったが、スターバックスのために週末の午後、わざわざ出掛けて来ることなど滅多とないのだし、寒いとは言っても零下と言うわけではないからと、私は自分の胸の内に言い聞かせて店の中へ入る。

 冷たい飲み物と言えば、麦茶か冷やしたジャズミンティー(もちろん自分で作って冷蔵庫へ入れておく)と決まっている私にとって、外でこんな飲み物を買うのは珍しいことで、ずっと飲んでみたいと思っていた抹茶フラペチーノを、さてきちんとすらすらと注文できるかとちょっと不安になりながら、スターバックスカードをもう片手に持って、レジの前へ立つ。


 サイズはと訊かれ、どんな大きさかと尋ね返すと、ミディアムと言いながらカップを見せてくれた。

 「ミディアムって、Tall?」

 「ううん、Grande。」

 「え、じゃあVentiはラージ?」

 「そう。」

 せっかくスターバックスのサイズに慣れたのだから、ややこしいことは言わないでくれないかと、心の中でだけ考えてから、Ventiと言い掛けたのを私はGrandeと言い直す。

 ぶつくさ考えながらも、これが今日初めて生身の人間と交わした会話だったから、私はきちんと外に出て人と関わっていることに内心では満足して、自分の注文を待った。

 皆熱いコーヒーやカプチーノを頼んでいる。そうだ、今日は外は寒いのだ。

 まあいい、凍死するほどではないし、凍傷の心配はもうしばらく必要ないのだから、半ば凍った飲み物を直に手に持って外へ出ても大丈夫だ。ほとんど剥き出しの液体が、凍って困ることもしばらくない。

 肌寒くても、明るい外は確かにもう春だった。


 私は7分で店を後にした。

 目の前の道路を横切るために、横断歩道へ向かって歩き出す。向かい側にあるバス停から、自分の家へとんぼ帰りだ。

 風が相変わらず冷たい。

 抹茶フラペチーノの上にたっぷりと乗ったホイップクリームは溶ける様子など一向になく、固いままのそれを、私はストローで時々つつきながら、その冷たいミルク入り抹茶を飲んだ。

 手が冷たい。指先が凍えて来る。紙のスリーブをもらってくれば良かったと思ったが、もういつバスが来てもおかしくはない時間だった。店に今から戻るのは少々手遅れだ。

 冷たいカップを持つ手を何度も変えて、私は冷えた掌に息を吹き掛けながら、冷たい抹茶フラペチーノを飲む。

 何だか、とてもおかしな感じだ。

 こたつのある、暖房の充分に効いた部屋で食べるアイスクリームなら、まだ様にもなるような気がした。


 ストローをフラペチーノから抜き取り、ぺったりとついたホイップクリームを舐め取る。スターバックスのホイップクリームは、甘くなくて固い。私はそれが気に入っている。

 カフェラテやカプチーノなら自分ででも淹れるが、このホイップクリームまで自分で準備するのはちょっと面倒だ。缶入りでごまかして、すぐにふわっと溶けてしまう、出来合いのホイップクリームの、やわやわとした頼りない軽さがコーヒーの中へ溶け切ってしまわないうちに、コーヒーの苦味とクリームの甘さを一緒に味わうのが、私は大好きだ。気をつけないとやけどをするのだけが困りものだが。

 飲み物を片手に外を歩くことなど滅多としないから、私は滅多とないことばかりの土曜の午後、バスを待ちながら何となくいい気分だった。

 スターバックスへ行く時は、読書か書き物の準備をして行く。30分から1時間程度滞在するのが普通だったから、今日のように、買ったばかりの飲み物を片手に店を出るなど尋常ではなく、寒い日に、冷たい飲み物片手に震えているのがどれだけ様にならない姿かには知らん振りをして、スターバックスのフラペチーノ(種類は結局何でもいい)を飲みながらバスを待っている、と言う自分の、滅多とない振る舞いに、何だかちょっといい気分だった。


 最寄りのバス停へ着くと、もう透明なカップの底にはホイップクリームしか残っておらず、そして私は相変わらず寒さに肩を縮めている。

 それでも家までの真っ直ぐの道を歩きながら、花や鳥や猫や犬たちに手を振って、私はうきうきと残ったホイップクリームをストローで吸い上げる。

 空になったカップの底を、カップを頭の高さへ持ち上げて眺めて、リサイクルに出せるマークが記されていることを確かめると、来週の金曜の朝に、リサイクルの青いプラスチックの箱の中に、ころんと転がるスターバックスのカップがあるだろう眺めを想像して、私はひとりでくすくす笑う。

 何が楽しいのかさっぱり分からないまま、愉快な気分のまま、土曜の午後の散歩が終わる。

 家に着いたらこのカップを洗って、リサイクルに出す準備をしなければならない。

 それが終わったら、熱いチャイを淹れよう。凍えた手を熱くなったマグで温めて、土曜の夜の始まりに、冷たかった抹茶フラペチーノの味を、私は思う存分反芻するのだ。

投稿者 43ntw2 | 返信 (0) | トラックバック (0)

このエントリーへのトラックバックアドレス:
API | 利用規約 | プライバシーポリシー | お問い合わせ Copyright (C) 2018 HeartRails Inc. All Rights Reserved.