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私はまた、ひとりよがりの恋をしている。
私の恋は常にほとんど妄想に近く、ろくに知りもしない相手に盲目的で愚かな想いを寄せて、そしてもちろん実る予感など最後までひとかけらも湧かないまま、何もかも一方的に終わる。
私はまた、そんな間抜けな恋をしている。
真摯な様に惚れる。一途で真剣な、そんな横顔を見てしまえばおしまいだ。そして合間に、私にと言うわけでもない笑顔でも見せられたら、誤解はいっそう加速する。
あの人が、私にあんな笑顔を向けるはずがないとわかっているのに、視界の端に引っ掛かったそれを忘れられずに、何日も何日も、何度も何度も、私はその笑顔を反芻する。
もしかして、はない。あの人は私に笑い掛けたりなんかしない。
一方通行の愚かな恋は、こうしていっそう愚かさを増す。
あの人の情熱の行く先へ、私も目を向ける。あの人の、熱のこもった視線。きらきらと、この上なく愉しそうに幸せそうに、あの人が生き生きと目を輝かせるのを眺める。あの目に恋をしない人間がいたら、きっと石か木だ。
私はあの人の、輝く目に恋をして、その視線が真摯に注がれる方向へ恋をして、そして私はあの人に恋している。
あの人が見つめるそのものと、そのものを見つめるあの人と、何もかも、何がどこまで何なのかわからないすべての入り混じったあの人の在る混沌に、私は深く恋している。
私の目の前で、私がこうと思い描くあの人は、そしてゆっくりと形を崩してゆく。
私の想うあの人は、真実のあの人ではなく、私の中に在るあの人は、何割かは私の勝手な思い込みの想像の像だ。真実のあの人を少しずつ知るたびに、私は1秒前よりももっと深くあの人に恋し、そして同時に、勝手な失望も味わう。私が想うあの人と、ほんとうのあの人の姿がぴったり重ならないのは、まったくあの人のせいではないのに。
あの人が、あの真摯さを失いつつあるからと言って、それはあの人のせいではないのに。
私は、真摯さに恋をする。真剣な情熱に魅かれ、その情熱のあふれる瞳に魅せられる。
恋は突然気安く始まるが、気軽には終わらない。恋の最初の真摯さを憶えていれば、それを忘れることなどできないからだ。
あの人の声、言葉、視線、情熱、少しずつ積み重なってゆく恋のかけらを、それはそれは大事に抱えて、そのひとつびとつを惜しんで、私は身動きできなくなる。
私は恋をしている。愚かで苦しいだけの間抜けな恋だ。報われる予感などなく、最後は大抵、汚物を見るような視線を浴びて、私は向こう側の終わりを知ることになる。
こちらから必死に伸ばしてあの人に結びつけた糸を、向こうから切られたからと言って、私の方もとほどくことはできず、どこにも繋がっていない糸の、向こう側の端を眺めて、私はため息をつく。
あの、私が恋した真摯さはどこへ消えてしまったのだろう。最初から存在もしなかったのか。あるいは姿を変えて、それはもう私にとっては真摯ではなくなってしまったのか。それとも、私の視線すら汚らわしいと、どこかへ隠されてしまったものか。
あの人は相変わらずあそこにいて、愉しそうに笑っている。それを見て、相変わらず幸せを感じながら、けれど私はそこにあの真摯さの存在を感じられずに、ひとり胸の内でだけ嘆いている。
私の勝手だ。あの人の知ったことではない。
端が地面にだらりとこぼれた糸の先の、こちら側を掌に乗せて、私はそれを眺めながら、あの人の真摯さを恋しがっている。私が恋したあの人の真摯さを、すでに懐かしがっている。
私のひとりよがりの恋だ。どこへも行かず、どこへたどり着くこともない、私の自分勝手な恋だ。勝手に始まり、知らずに終わる。今度の恋が終わるのは、一体いつだろう。
私はあの人が、コーヒーをブラックで飲むのかどうかすら知らない。多分これからも、ずっと知らないままだろう。
投稿者 43ntw2 | 返信 (0) | トラックバック (0)